アーカイブ | 2019年7月7日

デジタルファースト法

令話元年7月7日 (行政書士 小坂谷麻子)

【法律成立】

行政手続きを原則として電子申請に統一するデジタル手続法(デジタルファースト法)が5月24日に参院本会議で可決し、成立しました。引っ越し、相続などの手続きが簡単になりそうというイメージはおもちの方も多いかと思いますが、どのような法律なのかまとめてみました。

この法案、正式名称は「情報通信技術の活用による行政手続等に係る関係者の利便性の向上並びに行政運営の簡素化及び効率化を図るための行政手続等における情報通信の技術の利用に関する法律等の一部を改正する法律」です。

これまで、行政手続オンライン化法やマイナンバー法、公的個人認証法、住民基本台帳法など、デジタルに関連した既存の手続きがありましたが、それらを一括で改正したものです。そのため、関連する法律は89にものぼります。

みなさんの生活にももちろん、行政書士としても仕事のあり方が大きくかわるかもしれない、そんな法律です。

 

【施行期日】

施行期日は、項目によって交付から1年以内とされているものもあれば、5年以内とされていたり様々です。今年度から順次実施です。

【基本3原則】

基本原則は以下の通りです。

(1)デジタルファースト

行政の手続きやサービスが一貫してデジタルで完結する

(2)ワンスオンリー

一度提出した情報は再提出不要にする

(3)コネクテッド・ワンストップ

民間サービスを含め、複数の手続きやサービスをワンストップで実現する

【基本政策】

(1)行政手続における情報通知技術の活用

・行政手続のオンライン実施を原則

・行政機関間の情報連携等によって、添付書類の添付不要とする規定を整備(20年度から法人設立時の登記事項証明書の添付が不要。ネットで申請可能、本人確認書類(電子署名による代替等)。

(2)デジタル化を実現するための情報システム整備計画

・ データの標準化、API(外部連携機能)の整備、情報システムの共用化。

(3)デジタルデバイドの是正

・情報通信技術の利用のための能力等の格差の是正(高齢者等に対する相談、助言その他の援助)

(4)民間手続きにおける情報通信技術の活用の促進

・行政手続に関連する民間手続のワンストップ化

今年度から引っ越しに伴う電気ガスなどの契約変更をネットで一元化

また、死亡や相続の手続きも順次移行予定

【個別政策】

(1)本人確認情報の保存及び提供の範囲の拡大(住民基本台帳法)、公的個人認証(電子証明書)・個人番号カードの利用者の拡大(公的個人認証法、マイナンバー法)

・国外転出者の本人確認情報の交証

・国外転出者による公的個人認証(電子証明書)・個人番号カードの利用

(2)本人情報の保存及び提供の範囲の拡大(住民基本台帳法)

・住民票等の除票を除票簿といて保存・安全確保措置等)

(3)公的個人認証(電子証明書)・個人番号カードの利用者・利用方法の拡大)(公的個人認証法、マイナンバー法)

・利用者用電子証明書の利用方法の拡大(暗証番号入力を要しない方式)

・個人番号カードへの移行拡大(通知カードの廃止)

(4)個人利用事務及び情報連携対象の拡大(マイナンバー法)

・罹災証明者の交付事務等の個人番号利用事務への追加

・社会保障分野の事務の処理のために、情報連携の対象の事務や情報を追加

【最後に】

行政手続きの申請及び申請に基づく処分通知については、国はオンライン実施を原則化とします。また、地方公共団体等も努力義務ではありますが、オンライン実施の方向性に進んでいくでしょう。

行政の申請手続きに関係することなので、行政書士の業務のあり方も大きくかわっていくと思います。

それ以外でも、相続に関わる手続きや、除票等の整備が進むことで、土地の所有者等の調査作業等もしやすくなったり、弁護士や司法書士の業務にも大きくかかわってきそうです。

【参考リンク】

◆新旧対照表(首相官邸のサイトです)

http://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/hourei/pdf/shinkyu.pdf

◆「デジタル手続法案の概要」

http://www.cas.go.jp/jp/houan/190315/siryou1.pdf

◆「行政手続におけるオンラインによる本人確認の手法に関するガイドライン」(2019年(平成31年)2月25日)

https://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/cio/kettei/20190225kettei1-1.pdf

◆API導入実践ガイドブック(2019年(平成31年)3月28日)

https://cio.go.jp/sites/default/files/uploads/documents/1019_api_guidebook.pdf

◆「デジタル・ガバメント及びマイナンバー制度について」総務省の資料

http://www.soumu.go.jp/main_content/000604189.pdf

情報銀行

<令和元年7月7日 担当 小坂谷麻子>

情報銀行という言葉は、最近、テレビなどでお聞きになっている方も多いのではないでしょうか。私も、気になりつつもあまりよく理解できていないので、少し整理をしてみました。

【背景】

インターネットやデジタル技術の発展により、様々な個人情報の取得が可能となり、GAFA(グーグル、アマゾン、Facebook、Apple)等の大企業が、無料WEBサービス等を利用して、個人の購買情報・行動記録等を収集して専有してきました。その中で、データは誰のものか?といったムーブメントがEU中心に起ってきました。そして、データを我々の手に取り戻そうといった流れをうけて、私たちのデータをどのように使うのかは、私たちが決めるべきであるという価値観が生まれてきたのです。そして、EUでは、2018年にEU一般データ保護規則が制定されており、データは個人のものであることが明確化されました。

当初は、インターネットだと、無料でこんな便利なサービスを利用できるなんて!と考えていた方も多いかと思いますが、結局、GAFAは、無料にしてもおつりがくるぐらい、私たちの情報から利益を得ている、私たちの情報には価値があったんだというように考えるようになったということではないでしょうか。

実際に、IT関係のベンチャー等が参加するイベントなどを覗くと、とてもホットな話題であることを実感します。大企業に対して、データを我々の手に取り戻す、データの民主化といった論調で、IT関係の方々は熱心に議論をされております。データは、貨幣に匹敵しうる価値あるものであり、使い方を考えるのは私たち自身である・・というのです。ただ、そうはいっても、自分でデータを管理して、使ってもらう企業を個別に交渉するといったことは不可能です。そこで、クローズアップされてきたのが情報銀行です。

なお、今後、IoT機器等の発達により、ますます多くの情報が収集されやすい環境となり、個人の生活から生み出される有用な情報量は増加することが考えられます。そんな中で、今後ますます注目されることになるでしょう。

【情報銀行って?】

そんな中、日本では、平成27年に個人情報保護法が改正されたことにより、情報の匿名化による積極的な利活用ができるようになったため、情報銀行の仕組みが可能となりました。

総務省を中心に、「情報信託機能の認定スキームのあり方に関する検討会」が平成29年11月から実施され、議論をされてきました。現在取りまとめ(案)についての意見募集を令和元年7月4日に締め切った段階です。

総務省から発表された「情報信託機能の認定に係る指針ver1.0」の資料によると、と説明されております。なお、PDSはパーソナルデータストア(Personal Data Store)のことで、個人の情報を蓄積・管理をするところです。ここに情報を管理しておくことで、その中のどの情報をどの情報銀行へ委託するか等を自由に決めることができるといったイメージです。

これだけでは、よくわかりませんが、個人から信託されたパーソナルデータを管理し、販売先等の選定を行い、販売することで、個人に便益を還元する仕組みです。便益を還元と言いましたが、便益は、直接個人に還元されることもあれば、社会全体への還元されるのみの場合もありえます。いずれにしても、そのデータの利用先について、本人が関与する仕組みのことです。

なお、「情報銀行」といっておりますが、正確には、日本では銀行法上の銀行以外が銀行という商号や名称を、信託業法上の信託会社以外が信託会社の商号や名称を利用することはできません。そのために、一般的に「情報銀行」と言われておりますが、行政の資料等では、「情報信託機能」という堅苦しい言い方になっております。ここでは、一般的な使い方としてメディア等でもとりあげられているため、情報銀行という言い方をいたします。

「認定」とありますが、認定されなければ、情報銀行のサービスをできないというわけではありません。あくまでも、一定の要件を満たしているサービスであることを社会的に認知させるための民間団体によって行われるものであり、利用者が安全して情報銀行を活用できるように、総務省を中心とした検討会で、情報信託機能の認定に係る指針が定められました。

【第1弾認定】

IT産業に関わるIT団体の連合体「一般社団法人日本IT団体連盟」が、平成30年6月に定めれらた総務省の「情報信託機能の認定に係る指針ver1.0」を踏まえ、平成30年12月より「情報銀行」認定に関する申請の受付を開始しておりましたが、令和年6月21日に三井住友信託銀行(株)の「『データ信託』サービス」とフェリカポケットマーケティング(株)の「地域振興プラットフォーム(仮称)」について、情報銀行の第1弾として認定をしたとの新聞記事が出ておりました。

情報銀行といってもピンとこないかもしれませんが、具体的なモデルをみた方がイメージがわくかもしれません。

認定団体である日本IT団体連盟のサイトに掲載されているサイトです。特に後者については、地域の活性化に貢献する地域のための情報銀行を目指すと説明がありますので、どのようなものになるのか、個人的に気になります。

○「データ信託」サービス(三井住友信託銀行)

https://www.itrenmei.jp/files/files20190626134550.pdf

○地域振興プラットフォーム(仮称)(フェリカポケットマーケティング(株))

https://www.itrenmei.jp/files/files20190626134621(1).pdf

なお、認定申請中ということですが、電通系の株式会社マイデータ・インテリジェンスが、PSDとなるサービスを発表し、国内初の情報銀行のサービス提供を行うとの報道がありました。現在、一般実証実験参加者12000名で情報銀行トライアル企画を令和元年12月31日まで行う予定とのことなので、早速、MEYというマイデータバンクに登録をしてみましたが、アップルストアからアプリはまだダウンロードできないみたいです。また、感想等機会があればご報告できればと思います。

○MEY((株)マイデータ・インテリジェンス)

https://www.mydata-intelligence.co.jp/news/2019/07/20190703_01.html

なお、他にも三井住友銀行が、情報信託機能を用いた個人起点の医療データ利活用実証事業を行うなど発表されております。

○SMBCグループにおけるデータ利活用と情報銀行への取組み(三井住友銀行)(総務省サイトへのリンクです)

http://www.soumu.go.jp/main_content/000580625.pdf

その他、平成30年度の情報信託機能活用促進事業の委託先が総務省のサイトに紹介されております。平成31年度については、令和元年6月24日募集を締め切った段階です。

http://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01tsushin01_02000258.html

 

【参考サイト】

◆「情報信託機能の認定スキームのあり方に関する検討会」

http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/kenkyu/information_trust_function/index.html

◆総務省 情報信託機能の認定に係る指針ver1.0

https://www.meti.go.jp/press/2018/06/20180626002/20180626002.html